2016Fennel 2016.vol.72.,May-Jun

過多月経

―――最近、生理の量が増えてきていると感じていませんか?―――

毎月決まってやってくる月経。その出血が多くて困っている方は、意外とたくさんいます。この症状を「過多月経」といい、出血量が多いために外出先や就寝時も気になってしまう状態の方もいます。過多月経は、日本では推計で約600万人が抱えている疾患だといわれます。普通5日―7日間の1回の月経の出血量が最大50~100mlほどで、1枚の生理用品で3時間前後はもつ程度の量です。生理用品が1時間もたないほど経血量が多い、或いは、昼でも夜用の生理用品がなくては間に合わない、夜も途中で起きて生理用品を交換しなければならない、さらに、衣服をよごしたり、日常生活に支障が出るほどになると過多月経と診断されます。

原因

子宮筋腫や子宮内膜症、子宮体癌などの疾患や子宮には異常がなく、単にホルモンバランスが崩れているおこることもあります。特に多いのが子宮筋腫です。過多月経になると経血量が多くなるため「鉄欠乏性貧血」をともなうことが多く、 めまいや立ちくらみ、疲れやすいなどの症状があらわれることもあります。

治療 症状を軽減させるには、様々な治療方法があります。

  1. 漢方薬

    軽症の場合は、月経痛を緩和する漢方薬や血液の状態を調整するトラネキサム酸が使用されます。

2)偽閉経療法
薬剤性更年期をつくり、生理をなくす治療法です。生理を止めてしまうので、過多月経による貧血は改善され、また子宮筋腫は一時的に縮小しますが、副作用に更年期症状がでることもあります。

3)低用量ピル・超低用量ピル

子宮内膜を退縮させ、月経血量を減らすことができます。しかし、喫煙習慣や糖尿病など血栓傾向を伴いやすい背景のある方は、適応ではありません。

4)子宮内黄体ホルモン放出システム

当初は子宮の中に挿入する避妊リングと開発されたものですが、最近、過多月経に保険適応になりました。子宮内膜に直接使用して、増殖を抑えることにより経血量を減少させたり、月経痛を緩和します。40代の過多月経で困っている患者さんは、この治療法が有効であると実感しておられます。

生理の量は、他の人に聞くのも躊躇われますが、聞いても比較することは中々困難です。ですから、健康診断で貧血を指摘されたり、ご自身で2-3年前より生理の量が多くなっているようであるならば、早めに専門医へ相談しましょう。

 

Fennel 2015.vol.69.,Nov-Dec

むくみ  ――対策は日常生活から改善をーー

女性はむくみやすい

顔や足のむくみは、多くの女性が経験したことのあるものです。女性は男性と比べてむくみやすいと言われています。それは、筋肉量のちがい、低体温及び冷え、そしてホルモンバランスが関係しています。

むくみのメカニズム

むくみとは、体内に含まれる水分が必要以上にたまった状態を指します。循環が悪くなると、静脈やリンパ液の流れが悪くなることで、老廃物を含んだ水分が行き場をなくし、むくみが起こるのです。

顔のむくみと足のむくみ

朝起きると顔がむくんでいる。体重は増えていないけどフェイスラインがぼやけていたり、太ったように見えます。特にまぶたなど目の周りの皮膚は非常に薄いので、むくみが出やすいといえます。また、顔がむくんでいるのは朝が多いはずです。むくみの原因は水分ですから、起きている状態なら重力で水分が下にさがるので、夜は比較的顔のむくみは抑えられます。また、むくみは立ち仕事やデスクワークなど同じ姿勢でいることが多い人が生じやすく、足が最も生じやすい場所になります。足のむくみは夕方~夜にかけて、足底、足首、ふくらはぎなどがむくみやすく、翌朝には落ち着きますが、足のむくみは起こりやすく治しにくい場所です。

むくみ対策

  1. 締め付けるパンプス・ガードルは避ける:身体を締め付けてしまうような靴や服(特に下着)は避けましょう。特に女性の場合靴に問題がある方が多いので要注意です。

2)適度な運動やストレッチ:運動不足など、普段あまり体をうごかしていないと、血行不良につながりむくみやすくなります。特にふくらはぎの筋肉を強化することで、ふくらはぎの筋肉のポンプ機能が強化され、足のむくみが解消されます。そのために、爪先立ちを繰り返す運動やストレッチ、軽いランニングも効果があります。

3)食生活の改善

①塩分制限:むくみの大きな原因の一つとして、塩分の摂り過ぎが挙げられます。塩分の摂り過ぎは、血液中の水分が血管やリンパ管の外にしみ出し、間質液がたまり、体がむくんでしまいます。

②利尿作用のある飲み物:カフェインを含む飲料(緑茶・紅茶・コーヒー・ウーロン茶・ココア・栄養ドリンクなど)は利尿作用があります。

 

③カリウムの摂取:カリウムによる利尿作用があるので豆乳にも利尿作用があります。食材ではカリウムを多く含む食材に利尿作用があり、スイカやメロンは非常に利尿作用が高く、その他、きゅうり、白菜、じゃがいもなどにも利尿作用があります。

④アルコール:お酒には、利尿作用があるのですが、肝臓がアルコールを分解するのには水が必要です。そのため、お酒の飲みすぎは体内に水分をため込んでしまい、むくみを起こします。飲みすぎた翌日の朝は、顔がむくみますよね。

4)利尿剤や漢方薬

当帰芍薬散は、主に貧血症状のある月経困難症や月経不順の女性に用いられることが多い漢方薬です。「血の巡り」に関係することから、むくみ解消にも使用されます。五苓散はのどが渇き水を欲しがる・尿量減少のある場合、真武湯は冷え性・ふらっとするめまい感のある人に効果があります。

 

生活習慣を改善し、必要なときは適切な薬を服用して、むくみを解消して快適な生活を過ごしましょう。

らら・カフェ 2014. 冬号 (29) 32ページ

  子宮筋腫

子宮筋腫は女性の病気の中でも、特に多い病気です。40歳の女性の4人に1人は子宮筋腫をもつといわれています。実際には、ごく小さな米粒ぐらいの筋腫まで含めれば、ほとんどの人がもっているといってもいいほどです。症状は月経が10日以上ダラダラと続く、月経時の出血量が多く、貧血がある、月経痛がひどいなど、月経に関連した症状で気付くことが多いです。

治療

治療は、前述の症状が重症で、社会生活に支障が出る場合には治療の対象になり、大きさが小さく症状のない子宮筋腫は、経過観察のみでいいでしょう。

子宮筋腫自体は良性の腫瘍なので、命にかかわることはありません。しかし、まれに子宮肉腫などの悪性腫瘍(がんの一種)と鑑別が難しい場合もあります。

治療方法は、症状の重症度により、異なります。

過多月経で、軽度の貧血のみであれば、貧血治療薬を投与します。重度な貧血の場合は、月経を止める薬物治療を行います。日常生活が困難になる月経痛や過多月経の場合は子宮全摘出術の手術が必要になる場合もあります。しかし、手術や月経を止める薬物療法に抵抗感もあるでしょう。

 

閉経にて治療は終了

子宮筋腫の症状は、月経が無くなれば同時に無くなります。更年期を過ぎ閉経になれば、当然症状も無くなるのです。閉経の平均年齢は50歳です。早い人は、45歳で閉経します。したがって、40歳くらいで、子宮筋腫の症状がある場合、閉経を待って待機療法を選択する患者さんもいます。「あと2-3年上手に筋腫と付き合えますか?」と質問すると、「2-3年も?」と答える方は、手術等を行います。

時の流れ

でも、2-3年なんかすぐ過ぎてしまいます。最近、年をとるにつれ、時の流れが速く感じませんか?人間の時間感覚は年齢に反比例して速くなるといわれます。四十歳にとっての一時間は、十歳の子供にとっては四時間ほどに感じられるのです。速度は距離を時間で割る。日常生活の精神的な速度は、歳とともに速くなっていくのです。子供が高校受験したと思っていたら、もう卒業で、受験や就活で心配、と思っていませんか?子宮筋腫の治療に抵抗感のある方は、閉経まで上手に病気と付き合っていきましょう。今後、時の流れは加速度がついてさらに速く感じるようになるのです。でも、症状が重症で主治医に「手術です」、と断定された方は手術ですからね。

らら・カフェ 2014. 秋号 (28) 32ページ

子宮体がんと子宮頸がん

大川レデイースクリニック  院長 大川敏昭

子宮がんには、子宮頸がんと子宮体がんがあります(図)。子宮がんにかかる人は、年間約21,000人で、内訳は子宮頸がんが約10,000人、子宮体がんが約11,000人であり、子宮体がんの方が多く発症します。子宮頸がんの罹患者は20歳代から出現し始めて30~40歳代で増加しますが、子宮体がんは50歳代~60歳代に多いがんです。ここ20年で子宮体がんの患者数が約4倍にも急増しているのです。 以前は子宮がんといえば子宮頸がんでしたが、特に気をつけるべきなのは子宮体がんなのです。さて、みなさんはご存知でしょうか?自治体で行う子宮がん検診は、『子宮体がんの検診』ではなく『子宮がんの検診』をさします。「私は子宮がん検診を受診しているので、子宮がんはすべて大丈夫」とはならないのです。

子宮体がん検診を積極的に受けましょう

子宮体がんは、比較的初期のうちから不正出血やおりものの異常、下腹部の痛みなどの症状が見られますが、検診や婦人科医療から遠ざかっているとその異変を放置し、結果的に発見が遅くなってしまうことがあります。40歳以上で、それらの症状が見られる場合は子宮体がん検診を受けましょう。

子宮体がん細胞診検査

子宮体がんは子宮頸管の奥の体部にできるため、子宮頸がんの細胞診では見つけることができません。子宮体がんの細胞診には、細長い器具を子宮の奥に入れて内膜表面の細胞をこすり取ってきます。ただし、子宮体部でがんのできる範囲は広いため、必ずしも採取した部位の細胞にがんが見つかるとは限りません。このため、子宮体がんの細胞診の精度は80%程度と言われます。子宮体がんの細胞診はおおむね「陰性」「疑陽性」「陽性」の3つで示されますが、検査の結果が陰性であっても、出血や痛みが続く場合は、組織診を行うこともあります。子宮体がん検診は、子宮頸がん検診に比べ、検査において痛みを伴うことが多く、検査後2~3日程出血を伴うこともあり、患者さんが敬遠しがちですが、前述のごとく、子宮頸がんより子宮体がんの方が、多く発症しているので、私は積極的に子宮体がん検診を行っております。

子宮がん検診

らら・カフェ 2014. 夏号 (27)34ページ

更年期障害

大川レデイースクリニック

 更年期とは卵巣の活動が段階的に弱まり、その機能が永続的に停止する閉経までの移行期間を指します。日本人の閉経の時期は45歳から55歳とされていますので、更年期はこの年代をいいます。更年期症状の現れかたは様々で、辛い症状に長期間悩まされる方もいれば、全く症状がないまま閉経を迎えられる方もいます。生理不順、ほてり感やのぼせ感が主な症状です。具体的には、顔や首など上半身が熱い、発汗が挙げられます。さらに、頭痛、頭重感、動悸、めまい、肩こり、腰痛、全身倦怠感、また、不安感、イライラ感、不眠などのメンタル面にも症状が現れます。

生活習慣の改善

食生活においては辛いもの、熱いもの、カフェインを多く含むコーヒー、紅茶、緑茶、お酒などの刺激の強い食品はホットフラッシュを誘発しやすくなるので控えた方が良いです。ミソ、豆腐、大豆、葛(くず)などに多く含まれているポリフェノールの一種であるイソフラボンは女性ホルモンのような働きをするので、更年期障害の症状全般の改善が期待できます。

治療法

のぼせ感の症状が、1日に5-6回起こる方は、仕事や生活に支障をきたすので、治療が必要です。10回以上起きて、いつも熱い症状の方は、すぐにでも治療を始めましょう。それから、就寝中に、のぼせ感が生じ、目を覚ます方も、よく熟眠できず翌日に疲労感が残りますので、治療が必要です。治療には漢方薬やホルモン補充療法が有用です。

サンドイッチ世代

サンドイッチ・ジェネレーションという言葉があります。これは2枚のパンを使うことから親と子供の世話をしなければならないジェネレーション(世代)のことを言います。まさに更年期の時期が、サンドイッチ・ジェネレーションそのものなのです。親の介護、子供の受験や就活、住宅ローンや夫の仕事のことなど、頭が痛くなることばかり。さらに、本人の年齢からくる体力の低下を実感し、それに加えて、ホルモン低下による不快な更年期症状など、否応無しにストレスがかかる時期です。これらのことに一つ一つゆっくりとあせらないで、自分のペースで乗り越えていきましょう。必ず良くなります。なぜなら、更年期は必ず通り過ぎていくものです。そして、次のシニア時代を快適に過ごせますように。

 

Fennel  2012  Vol  ;、11page

思春期の月経不順を甘くみないで
――放っておくと、不妊症や無月経の原因にもーー

 日本大震災から1年以上経過しましたが、福島市は、まだまだ放射線量が高く、ストレスの生活の毎日です。中学生や高校生のお子様の月経は、順調に来ていますか?
月経周期は、通常25~35日くらいです。思春期の時期は、まだまだ月経が正順にならない人も多いですが、15歳で約5割、18歳で約8割の方が月経が正順になります。
環境の変化やストレス、体調の変化などで周期が不規則になり、3カ月以上月経がない場合を無月経という病気になります。6か月以上来ないと、治療に抵抗性となり、将来、無月経になったり、不妊症の原因になってしまいます。

ストレスで月経不順が起こるのはなぜ?
月経周期をコントロールしている脳の視床下部や下垂体は、ストレスにかかわる自律神経の中枢のすぐ近くに位置しているため、ストレスの影響を大きく受けます。そのため、ストレスの多い生活や無理なダイエットなどによってホルモンバランスが乱れ、ホルモン分泌が規則的に行われなくなって、次第に排卵できなくなります。

 思春期のやせ願望と過度なダイエット

女性の思春期・成長期はホルモンの分泌により体に丸みを帯びる時期です。しかし、
学校、家庭、友人関係など、思い通りにならないストレスを抱える中で、「芸能人のようにスリムになりたい」「細身の服を着たい」といったささいな自己実現への欲求が、無理なダイエットに走るきっかけになるとされています。極端にやせると、栄養失調から、血液中の糖分が不足し、元気が出ず、不眠や疲労感が現れます。脳の働きが低下し、精神的に不安定になったり、ホルモンバランスが乱れ、月経不順を引き起こしてしまいます。しかし、進んで医療機関を受診することはほとんどなく、やせることが心地良く、他人から見たイメージも良いと思いこんでしまいます。健康なら空腹感や体の不調は苦痛ですが、脳内麻薬物質の分泌により心地良いと錯覚してしまうのです。 

月経が2ヶ月来ない時は、婦人科を受診して

月経不順を甘くみて長期間放っておくと、治療を受けてもなかなか効果が出なかったり、将来不妊症や骨粗しょう症になるリスクを高めることにもなります。ホルモン療法や漢方療法を行って、月経周期が順調になるようしていく必要があります。
したがって、月経が2ヶ月来ないときは、婦人科を受診して、治療を始めましょう。
月経不順が気になる方は、お近くの産婦人科専門医を受診しましょう。繰り返しますが、
子供が欲しくなったときに産婦人科を受診すればいいと、月経不順を甘くみないでください。

シテイ情報ふくしま 2012年2月号掲載
「ママブック」

「思春期の月経異常」

福島市は放射線量が高く、ストレスの生活の毎日です。
月経は、順調に来ていますか?
中学生や高校生のお子様も大丈夫ですか?

月経不順を甘くみないで
放っておくと、不妊症や無月経の原因にも

月経周期は、通常25~35日くらい。思春期の時期は、まだまだ月経が正順にならない人も多いですが、18歳で8割が月経が正順になります。
環境の変化やストレス、体調の変化などで周期が不規則になり、
3カ月以上月経がない場合を無月経という病気です。したがって、2ヶ月来ないときは、治療を始めましょう。6か月以上来ないと、治療に抵抗性となり、将来、不妊症の原因になってしまいます。

Fennel  2011  Vol45;Nov-Dec、11page

更年期障害
―少しの治療で大変からだが楽になりますー
大川レデイースクリニック
更年期とは卵巣の活動が段階的に弱まり、ついにはその機能が永続的に停止する閉経までの移行期間を指します。日本人の閉経の時期は45歳から55歳とされていますので、更年期はこの年代をいうことになります。更年期障害は、卵巣より放出される女性ホルモンの減少によって起こる様々な身体症状です。更年期症状の現れかたは様々で、辛い症状に長期間悩まされる方もいれば、全く症状がないまま閉経を迎えられる方もいます。最初の症状として最も多いのは生理不順です。その次に、ほてり感やのぼせ感が起こる症状といわれています。最近では、これらの症状をホットフラッシュとも呼ばれています。具体的には、顔や首など上半身が熱い、赤ら顔、発汗が挙げられます。さらに、頭痛、頭重感、動悸、めまい、肩こり、腰痛、全身倦怠感、また、不安感、イライラ感、不眠(寝つきが悪い、眠りが浅い)などのメンタル面にも症状が現れます。
生活習慣の改善点
食生活においては辛いもの、熱いもの、カフェインを多く含むコーヒー、紅茶、緑茶、お酒などの刺激の強い食品はホットフラッシュを誘発しやすくなるので控えた方が良いです。ミソ、豆腐、大豆、葛(くず)などに多く含まれているポリフェノールの一種であるイソフラボンは女性ホルモンのような働きをするので、更年期障害の症状全般の改善が期待できます。
治療法
ホットフラッシュの症状が、1日に2-3回の生じる方は、生活習慣の改善で様子を見ましょう。しかし、1日に5-6回も起こる方は、仕事や生活に支障が出ますので、治療が必要です。10回以上起きて、いつも熱い症状の方は、すぐにでも治療を始めましょう。それから、就寝中に、のぼせ感が生じ、目を覚ます方も、よく熟眠できず翌日に疲労感が残りますので、治療が必要です。更年期障害治療の中心はホルモン補充療法です。ホルモン補充療法によってホットフラッシュに代表される症状が改善します。
漢方薬も有効
更年期障害には、漢方薬の服用も有用です。前述のように、症状は様々であり、個々に合う漢方薬を選ぶ事が重要です。漢方薬は、体内バランスを良くする働きを持ち、副作用も少なく、あまり体に負担がかかりません。更年期障害の症状に用いられる代表的な漢方薬を記します。桂枝茯苓丸は、のぼせ感、頭痛、肩こりなどの症状に効果があります。加味逍遥散は、いらいら感や精神不安などの精神症状に効果があり、冷え性にも良いとされています。当帰芍薬散は、冷え性でむくみやすい方に効果があります。更年期症状は誰にでも起こる症状だから、しょうがないとあきらめずに症状が気になる方は、お近くの産婦人科専門医を受診しましょう。治療にて、症状が本当に楽になり、もっと早く受診していればよかったといわれる方がたくさんいます。

Fennel  2011  Vol42;May-JUNE 8page

放射線が妊婦、胎児に与える影響について

東京電力の福島原子力発電所事故による放射線が外部へ大量に飛散したため、福島県民は大変不安な毎日を送っております。特に妊婦さんは、胎児のことが非常に心配だと思います。妊婦への影響についての知見が少ないため、不明なことも多く、そのため、情報量が少なく、県民のさらなる不安を助長させております。そこで、私は放射線の妊婦の影響に絞って述べてみたいと思います。
胎児への影響
赤ちゃんや妊婦が普通の人よりどのくらい感度が高いかということはなかなか難しくて、一概に言えません。 妊娠週数によってもその影響が異なります。しかし、おおよその目安は、赤ちゃんや妊婦は普通の人の10倍ぐらい安全性を見たほうがいいというところでしょう。妊娠が判明してから出産までにさらされてよい放射線の限度は1mSvです。これは、一般人が1年間にさらされてよい人工放射線の限度と同じです。一般人は、100mSvを被爆すると、1000人に5人が放射線によってガンが増えるという数値になります。これを専門用語では「過剰発癌」と言っています。放射線が胎児に及ぼす影響には、奇形、胎児の致死、精神発達遅延などがあります。100mSv(累積)以上の放射線被ばくがあると、明らかこれらに影響を生じます。しかし、その1/10での10mSvの胎児被爆でも、生まれた後の癌の自然発生リスクを40%も高めます。これは、小児癌自然発生頻度0.2%-0.3%を0.3%-0.4%に上昇させる頻度です。
したがって、妊婦の受ける放射線量は積算で10mSv以下にするのが望ましいでしょう。
放射線量の計算の仕方
被曝する放射線量は、外部被爆と呼吸によって体内に入る内部被曝を足した数値で言わなければいけません。すなわち、毎日報告されている、放射線量の2倍となるのです。また、屋内待避でいると、被曝量が減少します。密閉した家屋にいると(国のデータでは)屋外の10分の1から4分の1の範囲になることが知られています。 ただ家によっては換気の状態が違いますので、なかなか一概には言えないということがあります。
原発事故以来、当院はエアコンを作動させずに、電気ストーブで診療行い、なるべく外気が入らないように、診療を行って参りました。その結果、4月12日当クリニックの駐車場は2.38μSvに比べ、診察室は0.42μSvと1/5でした。
福島市の4月5日までの積算放射線量は、3mSvです。
すなわち 3mSvx2(内部被爆と外部被爆)x1/5(屋内だと屋外の1/5)
=1.2mSvとなり、妊娠が判明してから出産までにさらされてよい放射線の限度
は越えてしまいましたが、10mSv以下です。
換気をしない家にじっとしていれば、福島市では、胎児への影響に問題ないレベルと考えております。
さらに、短時間に被爆する急性被ばくと、今回の福島県民のように長期間にわたって被爆する慢性被ばくでは、慢性被ばくの方が健康被害は少ないと考えられております。長期間屋内にいることは大変なストレスですが、なるべく屋内にいれば、今後のさらなる被曝量を加えても大丈夫です。もう少しの辛抱です。
(1000μSv=1mSv)

Fennnel 2010, VOL39, Nov-Dece, 9ページ

「プチ更年期」

最近若い女性に増えています
若いのに更年期みたいな症状が出現し、「プチ更年期なのでは?」と、心配する女性が増えています。
「月経の量が減ってきた」「体は冷えているのに顔だけはほてることがある」「月経が2ヶ月に一度の事も」。
月経周期が乱れたり、無月経になったりする他、顔のほてりや疲れやすさ、うつ症状、冷えなど、
20~30代の女性において更年期障害のような症状を訴える人が増えて、「プチ更年期」という言葉が使われるようになってきました。
そもそも更年期とは閉経をはさんだ前後10年間をさし、平均的には40代半ばから50代半ばごろ。この時期になると卵巣機能が衰え、
エストロゲン(女性ホルモン)の分泌が減って月経周期が不順になります。このとき心身にあらわれるさまざまな不調を更年期障害といいます。
本来、卵巣機能が安定しているはずの若い女性に、なぜこのような症状があらわれるのでしょうか?「プチ更年期」の原因は、
ストレスや過剰なダイエット、過労、不規則な生活、激しい運動などによって、女性ホルモンが乱れるからです。それは、
脳にある視床下部がうまく働かなくなるため、エストロゲンの分泌が低下し、同時に自律神経もコントロールしているため、
自律神経とホルモンのバランスが崩れ、様々な症状が出現するのです。はっきりした原因もないのに月経が不順で、
倦怠感、慢性疲労感、冷え、頭痛、肩こり、めまい、のぼせ、微熱、食欲不振、不眠、イライラ、不安感、うつ、
気力・集中力・記憶力の低下などの症状が2週間以上続く場合はプチ更年期の可能性があります。
これらの症状がつらいのはもちろんですが、深刻なのは、女性ホルモンが低下した状態が長く続くと不妊症になったり、
そのまま卵巣機能が低下して本当に閉経してしまう「早発閉経」になってしまうことです。かつて早発閉経は非常にまれと考えられていましたが、
最近では珍しくないと分かってきており、40才未満で閉経する女性は100-200人に一人いると言われております。

早期の診断と治療を
プチ更年期は、人によって時間はかかっても、適切な治療で元に戻すことができます。治療は、まず血液検査で女性ホルモンの量を測定したうえで、
適切な治療が選択されます。また、日ごろの生活習慣を見直して体の状態を整えることも大変重要です。食事では、
女性ホルモンの働きを助ける大豆のイソフラボンやビタミンE、抗ストレス作用のあるビタミンCなどを十分にとり入れ、
しっかりとるようにするとよいでしょう。過労や睡眠不足を避け、規則正しい生活とバランスの良い食事を心がけましょう。
ストレスの多い現代社会で完全にストレスを避けることは不可能ですが、できるだけストレスをためず、発散させる方法をもつことが大切です。
中々生活習慣の見直しだけでは、症状が改善しない場合は、漢方療法やホルモン療法を行います。普段から基礎体温をつける習慣をつけ、
月経の異常に気づいたらなるべく早く、産婦人科を受診しましょう。

産婦人科の実際2010年9月号1323-1332p

7.インドメサシン、ニフェジピンの子宮収縮抑制効果
大川敏昭
大川レデイースクリニック院長
福島県立医科大学臨床教授

要約
切迫早産治療薬として多くの薬剤が知られている。しかし、日本においては、塩酸リトドリンと硫酸マグネシウムが保険適応薬として認可されているが、カルシウムチャンネル拮抗剤(ニフェジピン)やインドメサシンは妊婦への投与が禁忌となっている。最近、妊娠32週未満の切迫早産治療の第一選択薬にインドメサシンを薦める報告や、ニフェジピンを第一選択薬に薦める報告などが散見されるようになってきた。ここに、現時点での切迫早産に対する、それらの薬剤の有効性について述べる。

はじめに

子宮収縮抑制剤は、切迫流産や切迫早産に対する治療として用いられる。使用される薬剤は、β受容体刺激剤(主に塩酸リトドリン)、硫酸マグネシウム、プロスタグランジン産生阻害剤(インドメサシン)、カルシウムチャンネル拮抗剤(主にニフェジピン),オキシトシン受容体拮抗剤(アトシバン),ウリナスタチン、ニトログリセリン(nitric oxide (NO) donor)などがあげられる。日本では、切迫早産の治療薬として、塩酸リトドリンと硫酸マグネシウムが保険適応薬として、認可されている。
いずれの薬剤を切迫早産治療として、第一選択薬に使用するかは、各国の事情により異なってくる。例えば、日本においては、Takagiら(2009)1)の報告によると、切迫早産治療の90%にRitodrine Terbutalineのβ受容体刺激剤が使用されている。次に硫酸マグネシウム21%、インドメサシン2.9%、ウリナスタチン1.7%の使用の順と報告している。日本のほとんどの施設が、Takagiらの報告と同様な使用頻度であろうと思われる。一方、ヨーロッパのオランダ及びベルギーのDuvekotら(2009)2)の報告によると、オキシトシン受容体拮抗剤が41%と最も使用頻度が高く、2番目にカルシウムチャンネル拮抗剤34%,さらにβ受容体刺激剤14%,インドメサシン8%、硫酸マグネシウム0.6%、経皮吸収性のニトログリセリン 0.2%と続く。ヨーロッパの一部の諸国ではオキシトシン受容体拮抗剤が認可されているため、このように第一選択薬として使用されている。北米では硫酸マグネシウムが切迫早産の第一選択薬として最も使用されており、2番目には、β受容体刺激剤である3)4)。
さて、本稿では適応外使用薬として、カルシウムチャンネル拮抗剤、インドメサシン、及びニトログリセリンについて述べる。日本において、インドメサシンとニフェジピンは共に妊婦への投与は禁忌となっているが、最近、これらの薬剤が切迫早産の第一選択薬と薦める報告が散見されるようになってきた。ここに、現時点での切迫早産に対する、それらの薬剤の有効性について述べる。

インドメサシン

1、作用機序
1963年にインドメサシンは発見され、その後プロスタグランジンの遊離を抑制する抗炎症作用の薬剤として研究されてきた。1970年代にはいると、インドメサシンは、切迫早産治療に子宮収縮抑制剤として使用されるようになってきた。しかし、動物実験や症例報告では胎児の腎機能、脳、腸管への血流、血小板、好中球の機能への影響が示唆されていた。特に、インドメサシンの投与で問題になるのが胎児動脈管の収縮、閉鎖をきたすことである。動脈管の閉鎖で胎児腎血流量は低下、尿産生は減少をきたし、その結果羊水過少となり、胎児に悪影響を及ぼす。したがって、最近では、切迫早産治療に対する母体への投与は、日本では、その使用頻度が減少してきている。
プロスタグランジンE2及びF 2αは強力な子宮筋収縮作用を示す。これは子宮筋に対して細胞内カルシウムの流入、細胞内の筋小胞体 からのカルシウム放出を促進させ、子宮筋を収縮させる。インドメサシンの子宮筋収縮抑制作用の機序は、アラキドン酸からプロスタグランジンの最初の代謝産物であるプロスタグランジンG2への変換酵素であるサイクロオキシゲナーゼと競合することによって、プロスタグランデジン産生を抑制し、子宮筋収縮を抑制する(図1)。このサイクロオキシゲナーゼは全身臓器にわたり分布しているが、特に子宮筋には高濃度に分布している。早産の子宮筋において、プロスタグランジン やサイトカイン産生が増加し5)6)、子宮筋の感受性が亢進するため、早産を引き起こす。インドメサシンはこれらのプロスタグランジン産生を抑制、さらに子宮筋の感受性を抑制するため子宮筋収縮を減弱させる5)。したがって、インドメサシンは、妊娠中期の切迫早産治療における、強力な子宮収縮抑制剤である。

2、早産の有効性
1974年、インドメサシンを切迫早産治療に用いた最初の報告が出された7)。それによると全症例の80%に48時間以上の妊娠期間の延長を認めたとの報告である。1980年、最初のRandomized Controlled Trial(RTC)の報告によると、placeboに比較し有意に、妊娠期間を延長し、投与後48時間以内にほとんど分娩に至らなかった8)。1989年、Moralesら9)のインドメサシンとβ受容体刺激剤とのRTCでは、両群間に有意差を認めなく、両薬剤共に切迫早産治療に有用であると報告された。その後、インドメサシンは強力な子宮収縮抑制作用を示し、切迫早産に有益であるとの報告が多く出されてきた。2005年のCochrane Database review 10)の報告では、β受容体刺激剤及び硫酸マグネシウムと比較し、インドメサシンは48時間の分娩を有意に減少させたとしている。さらにインドメサシンは妊娠37週未満の分娩の頻度と母体の薬剤の副作用が少なかったとしている。しかし、結論において筆者は、切迫早産治療に対するインドメサシンの役割について結論するには、不十分なデータであるとも述べている。2009年Haasら11)のmeta-Analysisの報告によるとインドメサシンは、β受容体刺激剤、硫酸マグネシウム、 カルシウムチャンネル拮抗剤, オキシトシン受容体拮抗剤に比較し、有意に48時間以上及び7日間の妊娠延長が認められた。48時間以内の分娩は1000人中80人しか分娩に至らないのに対し、その他の切迫早産治療薬は1000人中182-338人分娩に至ったと報告している。したがって、インドメサシンは際立って、妊娠期間の延長の効果が認められた。さらに7日の妊娠期間の延長の効果も、48時間の妊娠期間の延長と同様に、インドメサシンが他の子宮抑制剤より有意に効果が認められたと報告している。

3、副作用
母体への副作用は、短期間の投与のこともあり比較的少なく、悪心、嘔吐、心窩部痛などである。重篤な副作用としては、消化管出血、凝固異常、血小板減少などがある。
一方、胎児への影響については、インドメサシンは胎児に移行することから、児に重大な副作用を生じることも、以前より多くの報告が出されている(表1)。動物実験では、胎児動脈管を閉鎖するため、胎児死亡を引き起こすことが知られている。ヒトでは、胎児動脈管は、胎児がより成熟すると閉鎖しやすくなり、妊娠32週の胎児では約50%が収縮を認めるといわれており、さらに、出生後の動脈管開存も報告されている。その他、脳室内出血、壊死性腸炎、腎機能障害などの報告もあり、妊娠中の投与は慎重になってきている。
Nortonら(1993)12)のcase-control studyでは30週未満に出生した児出生前にインドメサシンを使用した群ではコントロール群に比べ有意に壊死性腸炎が増加し、さらに脳室内出血、動脈管開存症が有意に増加したと報告し、Van der Heijdenら(1994)は長期間の使用で貧血、新生児死亡、腎の微小囊胞病変との関連の報告をしている。
しかし、Moiseら(1993)14)は、胎児動脈管狭窄ないし閉鎖は、妊娠32週以後の投与に来たすことが多く、特に48時間を超える投与の場合に認められたとしている。また、Maconesら(1997)15)は、インドメタシンは妊娠32週以下の投与に限って投与の有用性が危険性を上回っていることを指摘し、妊娠週数の早い症例に限局し、48時間を超える投与は控えるといった条件下で使用することが望ましいと報告している。Gardnerら(1996)16)は、後方視的検討でインドメサシンを使用した在胎24~31週の新生児において合併症は増加しなかったと報告している。Suaresら(2001)17)case-control studyを行い脳室内出血の増加と妊娠週数、絨毛羊膜炎、経膣分娩、RDSに有意な関連を認めたが、出生前のインドメサシンの投与との間には関連を認めなかったとしている。2005年、Loeら18)は28の研究論文をmeta-analysisにて検討した。対象6008人の児のうち、1621人がインドメサシンの胎内投与を受けていたが、インドメサシンは脳室内出血、壊死性腸炎、動脈管開存症、新生児予後に関連しないと報告している。以上のように、32週未満のインドメサシンの短期間の投与は、胎児の合併症を増加させないとの報告が多くだされた。
最近、Friedman Sら(2005)19)は、インドメサシンは脳質周囲白質軟化症(PVL)には関与していないが、periventricular echogenicity (PVE)に関与していると報告している。その後、Aminら(2007)20)はインドメサシンの副作用に関しての21の報告を検討し、妊娠36週以前に出生した児ではPVLと壊死性腸炎は増加し、脳室内出血、動脈管開存症、RDS,気管支肺異形成、新生児死亡率には差を認めなかった。この結果より、切迫早産治療にインドメサシンを投与するには、限られた症例にすべきであると述べている。
Baker(2008)21)は妊娠32週未満の症例なら、ステロイドに引き続き、インドメタシンの使用が最も有益であると報告している27)。2009年、Hassら11)は妊娠32週未満の48時間分娩を遅らせる切迫早産治療の第一選択薬は、インドメサシンである。ステロイド効果を十分に発現できるようにするための妊娠期間の48時間から7日間の延長は、新生児予後を改善させると報告している。しかし、新生児の合併症の検討は、RDSと新生児死亡については検討しているが、壊死性腸炎やPVLの合併症については言及していない。
インドメサシンは、明らかに最も子宮収縮抑制作用の強い薬剤である。しかし、妊娠32週未満の症例に使用しても、PVLなどの合併症が併発してしまう可能性がある。したがって、その使用に関して、他の薬剤では母体の副作用が強く、投与困難な症例や、前期破水や感染疑いの症例以外の限定した症例のみに使用されるべきであろう。

4、投与方法(表2)22)
初回投与量は、50mgの直腸投与または50-100mgを経口投与する。その後の維時量は25-50mgを6時間毎に経口投与し、48時間までとする。
インドメサシン投与中の胎児及び羊水量の評価方法を表3に示した23)。胎児禁忌例としては子宮内胎児発育遅延、腎奇形、絨毛膜羊膜炎、動脈管依存性の心臓奇形、双児間輸血症候群、羊水過少症などがあげられる。

5、サイクロオキシゲナーゼ2選択的阻害剤
サイクロオキシゲナーゼ(COX)にはCOX‐1、COX‐2の2種類のサブタイプの存在が知られている。COX‐1はすべての臓器に分布し、プロスタグランディンの産生に関与する生理的な酵素として、COX‐2は主に炎症反応によって誘導される病態的な酵素といわれている。COX‐2選択的阻害剤は、より強い消炎作用を有し、さらに鎮痛剤の長期投与の副作用である胃腸障害軽減させる目的で開発されてきた。ヒトの分娩中に子宮筋にはCOX‐2の発現が促進されること、動物実験によってインドメタシンで認められる胎児動脈管狭窄は、COX-2ではなくCOX‐1の抑制作用と強く関連があること、COX‐2選択的阻害剤がインドメタシン、塩酸リトドリンなどと同等あるいはそれ以上の子宮筋収縮抑制効果を認めることなどの理由から、COX‐2選択的阻害剤がインドメタシンに代わる子宮収縮抑制剤として注目されてきた。
1997年、Sawdyら25)は、 Nimesulideを妊娠16-34週の妊婦に投与したところ、胎児動脈管の収縮を引き起こさず、羊水量の減少も認めず、新生児にも影響を認めなかったと報告している。Stikaら(2002)26)は、Celecoxibとインドメサシンを妊娠24-34週の妊婦に投与し、比較検討したところ、両群間に妊娠期間の延長及び母体と新生児の合併症に差を認めなかった。しかし、胎児動脈管の血流と羊水量はインドメサシンの方が影響が大きく、Celecoxibの方が安全であると報告している。Bornaら(2007)27)は、Celecoxibと硫酸マグネシウムを妊娠24-34週の妊婦に投与比較したところ、両群間に妊娠の延長及び母体と新生児の合併症に差は認められなかったと報告している。2004年、 McWhorterら28)は、Rofecoxibと硫酸マグネシウムを妊娠22-34週の妊婦に投与し、比較検討したところ、48時間の妊娠延長は、両群間に有意な差は認めず、新生児への合併症も差を認めなかったが、母体への副作用は硫酸マグネシウムが有意に高かったと報告している。Groomら(2005)29)は、Rofecoxibは胎児の尿産生や羊水量、及び動脈管血流に影響させたが、投与を終了すると、すべて回復したと報告し、COX‐2選択的阻害剤の切迫早産への有効性及び安全性を述べている。しかし、2005年のCochrane Database reviewによると、COX‐2選択的阻害剤とインドメサシンを比較検討したが、母体及び新生児の予後に差は認められなかったと報告している。
以上のことから、COX‐2選択的阻害剤はインドメサシンに変わる非常に有望な薬剤と思われるが、症例数が少なく、有効性や胎児への影響など、さらなる検討が必要であろう。

ニフェジピン

1、作用機序
1966年、冠血管拡張薬の探索研究の中からニフェジピンが見出された。その後、血管平滑筋のみならず、子宮平滑筋の収縮をも抑制することが明らかとなり、1980年頃から切迫早産治療に使用されるようになってきた30)。ニフェジピンを代表とするカルシウムチャンネル拮抗剤は、ほかの切迫早産治療薬に比べて副作用が少なく、経口投与で治療できることから、最近、切迫早産に対する第一選択の薬剤として、注目されるようになってきている。
カルシウムチャンネル拮抗剤の子宮筋収縮抑制機序は、図2のように細胞膜の膜電位依存性Caチャネルのジヒドロピリジン(DHP)受容体に結合することによって、細胞内へのカルシウム流入を抑制し、その結果、細胞内カルシウム濃度が減少して子宮筋収縮を抑制させる31)。

2、早産の有効性
ニフェジピンの切迫早産に対する効果については、2001年、Tsatsarisら32)が ニフェジピンとβ受容体刺激剤を比較検討した。それによると、ニフェジピンはβ受容体刺激剤より、48時間以上の妊娠期間を延長し、妊娠34週以降の分娩の割合が有意に高かったと報告している。さらに、ニフェジピンは出生児のRDSやNICUへの収容率が有意に低く、出生体重や新生児予後には、両者間に有意差を認めなかった。また、ニフェジピンは母体への副作用のために、薬物投与の中断が有意に低かったと報告している。以上のことから、ニフェジピンは切迫早産治療の第一選択薬であると薦めている。また、2003年のCochrane Database review 33)によると、12のRTCの分析を行った結果、カルシウムチャンネル拮抗剤は他の子宮収縮抑制薬(主にβ受容体刺激剤)に比べて、有意に7日以内の分娩および34週未満の分娩を減少させている。初期治療開始から48時間以内の分娩も少ない傾向にあり、妊娠期間をも延長させ、副作用による薬剤投与を中止した症例も有意に少なかった。さらに注目すべきは、児の予後が有意に改善されたことで、RDS、脳室内出血、壊死性腸炎、新生児黄疸の頻度が、カルシウムチャンネル拮抗剤は他のβ受容体刺激剤や硫酸マグネシウムより減少したと報告している。このことから、カルシウムチャンネル拮抗剤は他の治療薬より、切迫早産治療に有効であると結論づけている。2007年、Lyellら34)はニフェジピンと硫酸マグネシウムを比較したところ、硫酸マグネシウムはニフェジピンより、48時間以上の妊娠延長の頻度が有意に高かった。しかし、両者に、分娩時妊娠週数や、延長した妊娠期間、さらに新生児予後には有意差は認められなかった。母体への副作用は明らかに、硫酸マグネシウムより低かったと報告している。

3、副作用
カルシウムチャンネル拮抗剤の母体への副作用は、比較的少ないが、血管拡張作用による一時的な顔面紅潮、頭痛、嘔吐、めまい、浮腫、動悸あるいは持続的な低血圧などがみられることがある。特に重大な合併症は、心筋梗塞35)、低酸素症36)、肺水腫37)、呼吸困難、極端な血圧低下、肝機能障害などの報告がある38)。カルシウムチャンネル拮抗剤の児への副作用は、de Heus (2009)ら39)が、ニフェジピンを投与しても、胎動や、胎児心拍数や臍帯血流に影響を与えなかったとの報告している。しかし、直接の胎児への副作用は認められないものの、母体の血圧低下による胎盤機能不全や胎児死亡の報告がある40,41)。
Haasら(2009)11)は、β受容体刺激剤,硫酸マグネシウム オキシトシン受容体拮抗剤、インドメサシン、カルシウムチャンネル拮抗剤を比較し、妊娠32週以降の切迫早産治療の第一選択薬はカルシウムチャンネル拮抗剤であると述べている。Blumenfeldら(2009)42)は、カルシウムチャンネル拮抗剤は硫酸マグネシウムやβ受容体刺激剤と同様な効果があり、母体の副作用が少ないことから、カルシウムチャンネル拮抗剤が切迫早産治療の第一選択薬と薦めており、Tranquilli AL ら(2009)43)もカルシウムチャンネル拮抗剤は妊娠中期及び後期及び早産治療に有益あると述べている。以上のことから、ニフェジピンは、母体の副作用が少ない上に、子宮収縮抑制効果も十分示され、経口投与と投与方法も簡便であり、ヨーロッパでは非常に多くの妊婦に投与されていることからも、今後日本においても有望な薬剤と思われる。

4、投与方法(表2)22)
ニフェジピンの初回投与量は30mgを経口投与する。その後維持量として、10-20mgを4-6時間毎に投与する。1日の最大投与量は120mgを限度とする。
投与禁忌症例は、心臓病や腎機能障害のある妊婦や、母体の低血圧(90/50mmHg以下)症例である。また、硫酸マグネシウムとの併用は避けるべきである。

ニトログリセリン
1、作用機序
一酸化窒素(nitric oxide (NO))は、生体内で、一酸化窒素合成酵素 (NOS) によってアルギニンと酸素とから合成される。一酸化窒素は細胞内の可溶型グアニル酸シクラーゼを活性化してサイクリックGMP (cGMP) を合成させることにより生理的反応を示す(図3)。1987年、EDRF(endothelium-derived relaxing factor, 内皮由来弛緩因子 )がNOであると証明された。その後、NOは各臓器の生理的機構において重要な働きをしていることが判明してきた。子宮筋においてもNOの存在が見いだされ、NOやiNOSが妊娠中期に増加し、妊娠末期に向かって減少するため、NOは妊娠維持、早産予防に重要な働きをしていると報告されている44,45)。NOは妊娠末期より妊娠中期の子宮筋収縮を有意に抑制させることから46)、NOドナーであるニトログリセリンが切迫早産症例にも応用されるようになってきた。

2、有効性
1994年、Leesら47)は、切迫早産症例に経皮吸収性のニトログリセリンを投与したところ、平均34日間分娩が延長され、子宮収縮抑制に有効であったとの報告が最初である。その後Blackら48)も、同様に平均46日間分娩が延長され、コントロール群の27日間と比較し有意に分娩を延長したと報告、また、頚管が2cm以上開大した切迫早産症例に用い平均46.2日分娩が延長したとの報告49)もある。1999年、Smithら50)のRCTでは,NO donorは有意に48時間以上分娩までの時間が延長したと報告している。しかし、その後、切迫早産治療の効果に疑問がもたれる報告も出てきた。2003年のCochrane Database review 51)では、NO donorの明らかな妊娠期間延長は認められず、現時点では、切迫早産症例にルーチンに投与することを支持する根拠にはデータが不十分であると結論付けている。

終わりに
日本では、インドメサシンやニフェジピンは妊婦への投与は禁忌となっているため、切迫早産治療にはほとんど使用されていないのが現状である。しかし、米国FDA薬剤胎児危険度分類基準においては、インドメサシンは、妊娠末期はランクD(危険性を示す確かな証拠がある)であるが、それ以外の期間はランクB(人での危険性の証拠はない)かあるいはランクC(危険性を否定することができないが、潜在的な利益が胎児の潜在的な危険性を上回ると判断される時、投与可能)となっている。また、ニフェジピンはランクCである。ヨーロッパにおいては2008年、バイエル社のニフェジピンの使用取扱において、妊娠及び妊娠の可能性のある妊婦への使用禁忌から、妊娠20週未満の妊婦への投与の禁忌と妊婦への使用が緩和された。子宮収縮抑制剤の効果や母体の副作用から、インドメサシンやニフェジピンを用いるべき切迫早産患者が日本でも多く存在すると思われる。その際には十分なインフォームドコンセントを得て投与すべきである。日本も、速やかに世界基準に一致した薬剤の適応になることを期待する。

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シテイ情報ふくしま 2010年6月号掲載
「CJクリニック」

「生理が近づくといらいらや不眠、吐き気がひどいです。病気でしょうか?」

A:月経前症候群という病気かも知れません
月経が近づくとイライラする、おこりやすくなるなどの精神症状や乳房の痛み、また、下腹部の不快感や痛み、便秘、むくみ、ニキビ、肌の荒れなどの症状が
起こります。心身共に大変苦しく、月経が開始すると症状がとれて楽になります.この症状が月経の度に繰り返します.これを月経前症候群(または緊張症)
といいます.ひとにも言えず、大変苦しんでいる方が少なくなく、月経のある女性の約3割もいると考えられています。

月経前症候群のチェックリスト月経が近ずくと
1) いらいらする
2) 乳房が痛くなる
3) 身体がむくむ
4) ニキビが出てくる
5) 下腹部が痛む
6) 眠くなる
解説:上記の症状のうち、一つでも当てはまる方は、専門医を受診しましょう。漢方薬や、低用量のホルモン剤(ピル)などの薬で
劇的に改善する患者様が多数おります。

経歴

福島医大大学院卒業
米国テキサス大学留学
福島医大産婦人科准教授を経て
クリニックを開設
福島医大臨床教授併任

Fennel 2010. vol36, p12, (福島コミュニテイ放送、 FM-POCO)掲載

  子宮頸がんワクチン
予防できる唯一のがん
子宮頸がんは、性交渉によりヒトパピローマウイルス(HPV)に感染して発症します。子宮頸がんは国内で年間約1万5千人が発症し、約3500人が亡くなっています。30代後半から40代に多く発症しますが、最近は性交渉の低年齢化などが影響し、20~30代の若い女性にも増えています。現在、20代女性に最も多くは発症する癌が子宮頸がんなのです。最近、この子宮頸がんを予防するワクチンが日本で認可されました。癌を予防する初めてのワクチンです。麻疹やインフルエンザの予防ではなく、毎年3500人も亡くなっている癌のワクチンです。
3回の接種が必要です。
子宮頸がんワクチンは0、1、6か月の3回の接種が必要です。インフルエンザワクチンのように毎年接種する必要はありません。有効性は10~20年継続し、12歳の女児全員が接種すれば、頸がんにかかる人を73・1%減らせると推計されている、画期的ながん予防薬です。
多くの国では12歳を中心に9~14歳で接種が開始されています。日本の中学校3年生の女子の性交経験率が5%と報告されております。したがって、その経験の前に接種を行うのが適切と判断され、中学生が対象となっております。しかし、接種の年齢には制限が無く、45歳の方の接種でも、勿論効果があります。子宮頸がんは深刻な問題ながら予防への関心が低いため、子宮がん検診の受診率が約20%と低迷し、対策の遅れが指摘されています。ワクチンの普及は、発症者を劇的に抑える可能性を秘めています。 ただ、普及には費用の問題が深くかかわってきます。 ワクチンは3回の接種で、全額自己負担だと4-5万円かかります。しかし、がん患者となれば、治療費や失われた労働力を計算すると、がん予防にかかるコストの方がずっと小さくなるとの試算もあり、ワクチン接種を公費助成し、接種率を高めようとする自治体が出てきました。しかし、残念ながらその自治体の数はわずかに過ぎません。福島県においては、大玉村での助成が決定したようです。さらに、いくつかの市町村で、公費助成を検討しているようですが、助成の有無は地域格差を生じてしまいます。ワクチン接種は住んでいる地域によって、差がでるべきではなく、国民が等しく受けられる利益であるべきです。この公的助成は、諸外国のように、国のがん予防対策の国策で進められるべきものであります。
子宮がん検診も受けましょう。
ワクチンを接種したから、がんに絶対にならないわけではありません。したがって、ワクチンを接種しても、20歳以降の毎年の子宮がん検診も必要です。ワクチン接種と子宮がん検診を組み合わせれば、将来日本の子宮頚がんによる死亡者は激減すると思われます。

 財界ふくしま 2010年2月号

女性のライフスタイルが幸せになる医療を

大川レディースクリニック
住所 〒960-8152 福島市鳥谷野字天神3-11
電話 024-545-8833
創業 平成21年■月
診療科目:産婦人科・内科
診療時間:9:00~13:00/14:30~19:00(土曜日は14:00~16:00)
休診日:日曜、祝日、水曜午後

大川敏昭院長
昭和34年9月9日、福島市生まれ。県立福島高校から東海大学医学部へ進み、福島県立医科大学大学院終了後に慈誠会猪俣病院(現大町病院)勤務。平成3年から2年間テキサス大学産婦人科留学し、県立医大産婦人科講師へ。20年に同大学産婦人科准教授に就任し、その後、同クリニックを開設した。趣味は論文・学術研究。福島市内の自宅に夫人と2人の子供と暮らしている。

祖父が開業医、父が医師であり大学助教授という「医師一家」に育ち、幼い頃から自然に医師を目指していたという。母からは激務を心配する余り「産婦人科医にだけはならないで」と懇願されたが、
「夢のある仕事に楽な仕事はない。産科医療の人手不足はいまに始まったことではなく、私が医師になった25年前から既に顕在化していました。過酷な勤務を強いられる医療の現場は確かに大変ではありますが、それは医療の世界に限ったことではないはずです」
と、穏やかな語り口の中に高い職業意識を見せる。
昨年3月まで産婦人科専門医として県立医大の附属病院で産婦人科の医療全般に関わってきた大川院長は、大学病院という高次医療を担う立場に身を置き、難易度の高い周産期医療の最前線に立ってきた。その大川院長が昨年クリニックを開院したのは、患者にとって身近な存在に感じられる医療を提供したいと思ったからだという。
「県内で分娩が出来る病院施設は4年前の31から一昨年には20施設に減少しました。分娩施設がある所は外来は手一杯の状態です。当クリニックはセミオープンシステムで、妊婦健診などの周産期医療や生理痛や更年期障害などの診断、治療、予防をし、手術や入院が必要な場合は提携する病院をご紹介しています」
と、機能分担を図りながら妊婦や女性患者に安心の医療を提供している。それも、これまでに培った知識と経験、そして幅広い人脈があるからこそだ。特に周産期に関する地域医療の慢性的な供給不足は深刻で、こうした医療の機能分担は医師、患者共に今後はますます求められてくるものになるはずだ。
「開業して良かったと思うことは、患者さんの笑顔が見られること。例えば女性の生理は平均して10歳から50歳までですが、これはトータルで換算すると10年分になります。生理痛、出血などのトラブルが10年続くと考えれば苦痛ですが、ホルモン剤などの治療で魔法のように悩みが解消されることもあります。患者さんのライフスタイルがより良く生まれ変わり、そのことでお礼や感謝されるとうれしいですね」
と、笑顔を向けた。(板倉)

シテイ情報ふくしま 2010年2月号
「キッズ&ママブック」

Q:高齢出産「現在38歳です。妊娠、出産ができるのか不安です・・」

A:35歳以上の初産婦を「高齢出産(初産)」と言います。近年、女性の社会進出や晩婚化が進み、35歳以上で妊娠・出産する人が増えています。
35才以上で初めて出産される方は、35才未満の妊婦さんに比べて、流産率の増加、 染色体異常の上昇、帝王切開になるケースが増加するなど、
少しリスクが高くなることは否めません。しかし、日本の周産期医療の水準は世界でトップクラスです。
さらに、年齢にかかわらず妊娠・出産は個人差があるものですから、過度に心配することはありません。
また、育児にあたり、子供の成長と共にあなた自身も成長しますよ。 

チェックリスト項目
分娩時の年齢は35歳以上?
身長は150cm以下?
妊娠前の体重は65kg以上?
たばこを吸いますか?
内科疾患の薬を服用している
不妊治療を受けた。

福島医大産婦人科同窓会報 平成21年

私が佐藤教授の1番弟子

佐藤教授、退官本当におめでとうございます。私は昭和60年に東海大学を卒業し、昭和62年に佐藤教授の産婦人科講座に入局させて頂きました。昭和62年組は、私のような既卒を含めて、10人もの強者が入局しました。佐藤教授は、昭和60年9月に福島医大に着任致しましたので、昭和61年卒が佐藤教授一期生となり、私の入った62年組は二期生ということになります。しかし、私は佐藤教授に最も長くご指導頂いた1番弟子だと思っています。それは、私が大学を卒業し、昭和60年5月に、東北大学産婦人科に入局した時の医局長が佐藤教授でありました。入局後、研修先の国立水戸病院に出るまでの3か月間を佐藤教授にご指導頂きました。9月に福島医大の教授に就任が決まった時に、私は「これはラッキー、私が新教授の1番弟子になれる」と、当時、研修先の病院に出たばかりでしたが、福島市出身でもあり、教授と一緒に福島医大に移動したいと思っていました。その頃は、当然福島医大の教授選については、とても関心があり、東北大学から誰が立候補したとか、上司から聞いておりました。その佐藤教授の人徳の素晴らしさ、業績、手術技量などの情報を、十分に研修病院の上司から聞いていたからです。福島医大の教授に決定した後に、佐藤教授に一緒に福島に移りたいと申し入れたところ、2年間の研修が終わってから来てほしいとのことでしたので、昭和62年に入局となった次第です。もし、佐藤教授以外の方が、福島医大の教授になっていたら、私は福島には移らなかったでしょう。というわけで、私は佐藤教授一期生より前の0期生の1番弟子だと思っています。佐藤教授は、星助教授と遠藤講師を東北大から連れて来ましたが、私もくっついて行ったのです。本当に、そのときの判断が正しかったおかげで、佐藤教授には退官までの25年間もの長い期間をお世話になり感謝しております。今振り返ると走馬燈のように25年間もあっという間でした。その中で、佐藤教授の肝の座った偉人であることをここに記したいと思います。
それは、O大学M教授とM大学I教授と佐藤教授が会食していた時のことです。3人の教授以外にも、その医局の若い医局員が何人かいたでしょうか。当時大野病院事件について、佐藤教授が心身すり減らして頑張っている時でした。私がM教授に「もし先生の医局でこんな事件が起こったら、もちろん先生は立ち上がりますよね」と水を向けました。しかし、M教授からは返事がなく、少し間があってから、I教授が「私のところでこんな事件が会ったら、私がアキラ教授のようにできたがどうかーーー」。すると間髪入れずに、M教授が「んー、アキラのとこでよかった、よかった」と。そうです。佐藤教授同様に日本の周産期の重鎮である教授でも検察に向かって立ち上がれたかどうかわからないのに、佐藤教授は立ち上がったのです。その時、私は本当に胆力の据わった教授であることを再認識しました。本当に佐藤教授のおかげで、無罪を勝ち取りました。医療関係者が選ぶ平成20年の注目される偉人ベスト10に佐藤教授は第9位にランクされておりました(1位は桝添厚労大臣)。裁判対応には、本当に重圧であったことでしょう。医局忘年会の温泉旅館で、佐藤教授と同室で寝ていた時のことです。午前4時頃だったでしょうか、私は佐藤教授の寝言で目を覚ましました。寝ぼけた私は、教授の寝言の内容はよく分かりませんでしたが、大野病院事件のご苦労についてであることだけはすぐに分かりました。私は本当に胸が熱くなって、その後眠れませんでした。
佐藤教授は、紆余曲折ある難しい歴史を背負った福島医大産婦人科同窓会を何とかまとめたいと大変尽力しておりました。私は親子2代で産婦人科同窓会にお世話になり、佐藤教授の同窓会に対する思いなど、皆様に書きたいことが沢山ありますが、そろそろペンを置きます。
最後に、こんな素晴らしい教授に25年間ご指導頂き、感謝しております。そして私は本当に幸せ者だと思っています。佐藤教授におかれましては、今後も健康に留意され、これからも一生ご指導の程お願い申し上げます。

ハイリスク妊娠の診療を極める。[前置胎盤(含む癒着胎盤)] 永井書店。大阪。2009.p186-194.

大川敏昭(大川レデイースクリニック)

I 前置胎盤

 前置胎盤は、近年、帝王切開術の増加に伴い増加傾向にある。前置胎盤や低置胎盤、前置癒着胎盤といった胎盤異常は、母体死亡をも引き起こしかねない致命的な産科出血の原因となるため、最も慎重に対応しなければならない合併症のひとつである。

1. 定義
前置胎盤(placenta previa)とは、「胎盤の一部または大部分が子宮下部(子宮峡)に付着し、内子宮口に及ぶものをいう。内子宮口にかかる程度により、全・一部・辺縁の3種類に分類する。これは子宮口開大度とは無関係に診断の時点で決め、検査を反復した場合は最終診断による。なお、低置胎盤は含まない。」と、日本産科婦人科学会で定義している。前置胎盤は内子宮口を覆う胎盤の程度により、以下の3つに分類される(図1)。
[1]全前置胎盤(placenta previa totalis):胎盤が内子宮口の全部を塞いでいるもの。
[2]一部前置胎盤(placenta previa partialis):胎盤が内子宮口の一部を覆うもの。
[3]辺縁前置胎盤(placenta previa marginalis):胎盤の下縁が内子宮口縁に達しているもの。
低置胎盤
胎盤の下縁が内子宮口に達しないが、それとの間の距離が5cm以下のものを低置胎盤と言う。

シテイ情報ふくしま 2009、9月号「キッズ&ママブック

マタニティ・ブルーズ、産後うつは必ず治ります

出産後の女性は、誰でも程度の差はありますが、マタニティ・ブルーズになります。
その約10-20%もの多くの方が、症状が重症にて、産後うつとして治療が必要になります。原因は分娩後の悩み・心配事などの心理的な要因やホルモンバランスの崩れなどによって起こってきます。治療は、薬物療法や育児環境改善のアドバイスを行います。治療には旦那様の理解と協力が不可欠ですから、旦那様と一緒に受診してください。
「チェックリスト」
1)夜、よく眠れませんか?
2)することがたくさんあって大変ですか?
3)急に、不幸せに思えて、泣けてきますか?
4)理由もないのに、不安になりますか?
5)物事が悪くいった時、自分を責めませんか?
6)自分自身を傷つけるという考えが浮かんできませんか?

上記の項目に1つでも当てはまる方は、気軽に当クリニックに相談しに来てください。

産婦人科の実際 2009:58(7);p1019-1024掲載

既往帝王切開術後の妊娠分娩管理、特に瘢痕子宮について

大川敏昭(1)、佐藤章(2)

福島県立医科大学医学部産科婦人科、(1)准教授、(2)教授

  我が国を含め世界的に帝王切開率は、年々増加してきている。しかし、帝王切開術の既往のある患者の約60%の高頻度に帝王切開創に一致してなんらかの欠損(帝王切開瘢痕憩室)が見られたとの報告がある。したがって、次回妊娠分娩管理には、帝王切開瘢痕部に発生する合併症を十分に考慮して管理をしなければならない。今回は、帝王切開術後瘢痕部妊娠、前回帝王切開既往の前置癒着胎盤、既往帝王切開術後経腟分娩(Vaginal birth after Cesarean SectionVBAC))の管理について述べる

 

Fennel 2009. vol31,July-August (福島コミュニテイ放送、 FM-POCO)掲載

子宮頸がん検診

子宮頸がんは、予防出来る

子宮がんには、子宮頸がんと子宮体癌があります(図)が、今回は子宮頸がんのお話をいたします。子宮頸がんは、女性のがんの中で4番目に多い病気です。40歳を超える女性の約2~3%が子宮頸がんを発症しています。しかし、最近では20-30歳代における子宮頚がんの罹患率が増加してきており、この年代の女性においては、子宮頸がんは最も罹患率の高いがんといえます。最近明らかになったのは性感染症であるヒトパピローマウィルス(HVP)の感染者に子宮頸がんが高率で発症していることです。HPVは子宮頸がんの原因ウイルス、性交経験者の80%がHPVに感染していると言われています。性体験が低年齢化しているため、若い女性に子宮頸がんが増えているのです。HPV自体は身体のどこにでもいるものですから、誰もが感染する可能性を持っています。HPV感染は基本的に風邪に罹患するのと同じような感染症であり、淋病や梅毒などの性病とは異なります。

20044月に、厚生労働省は、子宮がん検診の対象年齢を従来の「30歳以上」から「20歳以上」に引き下げ、若い年齢層からの子宮がん予防に力を入れていくことになりました。しかし、日本の子宮頸がんの検診率は、約20%にすぎません。それに比べて欧米各国では、子宮頸がんに関する知識が浸透していますので検診率が高く、80%以上が受診しています。日本人は国民皆保険のためか、病気になったら医療機関を受診すればいいと、予防への関心が薄い国民性なのかもしれませんが、それでは自分の身体は守れません。

子宮頸がんの症状として初期の場合、自覚症状がほとんどなく、不正出血や痛みを感じてからは、がんが浸潤しているケースもなくなくありません。定期的に子宮がん検診を受診していれば、異型成やがんのごく初期の段階で発見することが可能で、早期に発見できれば、ほぼ100%治癒が期待できます。さらに、子宮の温存も可能となり、妊娠出産もできます。したがって、検診を受けていれば、子宮頸がんは、予防出来る癌なのです。

 子宮頸がんの検診方法は細胞診と言う検診を行います。長い綿棒で子宮頸部をサッとこするだけで痛みは無く、数分で終了します。費用は医療機関によって異なりますが、保険診療ではなく、自費診療となります。しかし、不正出血や帯下の症状などが認められるときは、保険診療となります。HPV検査は自費診療となります。

最近の研究では、細胞診とHPV検査が共に陰性であれば、向こう3年間は子宮頸がんを発症しないとの報告も出てきました。

2007527ZARDのメンバーが子宮癌克服のための闘病中に、階段からの転落事故で40歳の若さで亡くなられたことは、皆様の記憶に新しいと思います。

「負けないで もう少し 最後まで 走り抜けて♫♬♪♪負けないで ほらそこに ゴールは近づいている♫♬♪♪♪♭♫♮」。自分の身体をもっと大切にして、子宮癌検診を受けましょう。

 

 

福島県医師会雑誌2009年8月号掲載

大学での研究生活

 私は、昭和60年に大学を卒業、本年4月に福島医大を退職し、クリニックを開設するまで、卒後2年間の初期研修(国立水戸病院)、および2年間の猪又病院勤務以外、ほとんど大学に勤務しておりました。大学では、私の好きな研究を十二分に堪能させて頂き、2年間の米国テキサス大学留学を含めて、本当に充実した研究生活を満喫できました。私の研究テーマは、陣痛発来機序の解明で、子宮平滑筋の薬理学の研究でした。私の勇往邁進な研究の日々において、研究したからこそ味わえた、ささやかな充実感や満足感などを懐古してみたいと思います。

研究を始めたばかりの頃は、まず、実験がうまくいったこと、そして、統計処理の結果、有意差が認められた時が、最初の研究の喜びでした。その後、論文を投稿して、採用の通知が来た時。印刷されたその論文が送られてきた時。そして、外国から別刷り請求のリクエストハガキが届いた時(今はメール)。私の論文が、他人の論文に引用されているのを発見した時も、研究初心者としては格別な満足感でした。さらに、科学研究費が採択された時(15年間で合計1800万円も頂きました)。初めて欧文雑誌から査読依頼がきた時も驚きました。それから、北米周産期学会のplenary sessionで聴衆3000人の前で発表した時は、最大の充実感でした。国内では、日本産婦人科学会総会シンポジウムに私が1番の高得点で採択され発表できた時。また、国際学会でポスター発表していた時に、質問にきたワシントン大学のポスドクと意気投合し、「俺たち、将来偉くなって、グラントをとれたら、共同研究をしよう。そして、米国と日本とを行き来するの。かっこいいジャーン」って、エキサイテイングな話をした時。外国の研究者から私の所で研究したいと手紙が来た時(今まで3人の研究者からきました。残念ながら医局事情もあり、実現できませんでした)。イタリアの教授から共同実験をやろうと呼びかけられ、全ての実験費用と研究者を福島に送るといわれた時。(その時東アジアでSIRSが発生してしまい、計画中止になってしまいました。)米国のある周産期センターから准教授として、オファーが来た時。(勿論、沢山の方へオファーを出しているのでしょうが、「臨床ができて、小動物の実験を精力的に行っている人を臨んでいる」とのこと。まさに私のことでした。臨床においても研究の薬理学が活かされ、「先生は、薬理学的に患者様を診察、治療しますね」とネーベンに言われたことがあります。私に取って、本当にうれしい言葉でした。

私は長い研究期間の中で、いわゆる研究に行き詰まったことが、幸いにも1度もなく、楽しい充実した研究生活を送ることができました。このことは、ご指導頂いた佐藤章教授および産婦人科医局員のおかげだと本当に感謝しております。

 私は本当に大学での研究生活が好きでしたので、大学を卒業してほんの3か月しか経過しておりませんが、すでに感慨一入の感があります。今後、今までの研究生活を活かして、地域医療に貢献できるように精進したいと思います。

 

 

ふくしまゆう2009年7月号(福島民友新聞社)

読んで役立つゆうインフォメーション 婦人科編

子宮がん検診

子宮ガンには子宮頸癌と子宮体癌があります(図)。子宮頸がんは、毎年検診を受診していれば、予防出来る癌です。子宮体癌は月経以外の出血を認めた時は、子宮体癌の検診を受けましょう。両者のがんとも早期発見、早期治療にて治る癌です。

「子宮がん検診の種類」

 子宮ガン検診と言われるものには、子宮頸部細胞診と子宮体部細胞診の2種類があり、このうち最も一般的に行われているのは前者の子宮頸部細胞診の方です。子宮頸癌と子宮体癌の発生率は子宮頸癌の方が多く、このため通常は子宮頸癌に対しての子宮頸部細胞診のことを「子宮ガン検診」と称する場合が多くなっています。

「子宮頚がん:若い女性に増加」

子宮頸がんは、40歳以上の女性の約2~3%が発症する、頻度の高い病気です。しかし、最近では20-30歳代における子宮頚がんの罹患率が増加してきており、この年代の女性においては、子宮頸がんは最も罹患率の高いがんとなってきました。最近明らかになったのは性感染症であるヒトパピローマウィルス(HVP)の感染者に子宮頸がんが高率で発症していることです性体験が低年齢化しているため、若い女性に子宮頸がんが増えているのです。20044月に、厚生労働省は、子宮がん検診の対象年齢を従来の「30歳以上」から「20歳以上」に引き下げ、若い年齢層からの子宮がん予防に力を入れていくことになりました。しかし、欧米各国の子宮頸がんの検診率は80%以上であるのに比較し、日本の検診率は、たった20%にすぎません。

子宮頸がんの症状として初期の場合、自覚症状がほとんどありません。定期的に子宮がん検診を受診していれば、異型成やがんのごく初期の段階で発見することが可能で、早期に発見できれば、ほぼ100%治癒が期待できます。さらに、病変部のみの切除の手術のため、子宮の温存も可能となり、妊娠出産もできます。

私は、何人もの20歳代の進行した子宮頚がんの患者様を診察してきました。ですから、検診を是非とも受診して頂きたい。子宮頸がんは、予防出来る癌なのです。

「子宮体癌:患者数が増加」

子宮体癌は、以前は発症頻度が少ないため、子宮頚がんに比べあまり知られていませんでした。しかし、近年患者数は増え続けており、子宮頸癌と子宮体癌の発生率は64にまで迫っており、近い将来には、子宮頸癌を追い抜きそうな勢いです。子宮体がんの原因は、女性ホルモンと密接な関係があり、月経不順、肥満、閉経時期が遅い、出産経験がない、などの要因はその発症リスクを高めます。反対に、運動や低容量ピルの服用は発症リスクを下げます。月経が不規則で、月経周期と関係ない出血が生ずる症状を認めたら、子宮体部細胞診を受けてください。治療は、子宮および卵巣を摘出する手術が一般的です。しかし、妊娠を希望する若い患者様には、早期のがんの場合は、内服治療を行い、妊娠能力を温存しようとする試みが広がってきました。その治療によって、実際に妊娠出産したとの報告もあります。自分の身体をもっと大切にして、子宮癌検診を受けましょう。早期発見、早期治療で、癌は治ります。

]City情報福島 2009年6月号

CJクリニック

ドクターQ&A 婦人科系

子宮内膜症

生殖年齢層にある女性の約5%は子宮内膜症に罹患しているといわれます。診断には、詳細な問診、内診や超音波検査、さらに血液検査で腫瘍マーカーを測定し、子宮内膜症の診断を行います。治療には、薬物療法(鎮痛剤、ピル、漢方薬、GnRHアナログ)と手術療法があります。子宮内膜症を心配している方は、是非一度かかりつけの専門医を受診してください。専門医を受診することによって、生理痛の原因が判明するだけでも、安心感が得られると思います。

 

2009年5月 リビング福島掲載

リビングメデイカル110

生理痛

 

健康な年頃の女性であれば誰でも訪れる生理。この生理には生理痛がつきも

ので、軽度の生理痛を含めると成熟婦人の70〜80%にもみられます。個人差があるので誰もが同じ痛みではありませんが、日常生活に支障が出るなど月経困難症と診断され治療が必要な人はその10%といわれます。原因は、過労やストレスが引き起こす精神的なものによる痛み、子宮筋腫や子宮内膜症などが原因となる病気が引き起こす痛み、あるいは子宮内膜を排出するために、子宮収縮ホルモン(プロスタグランジン)が分泌され、そのホルモンが増えると子宮もその分収縮し、痛みが増長するなど様々な痛みの原因があります。診断には、詳しい症状の分析、さらに超音波検査や採血が必要です。一般に生理中は、体を温かくすることで生理痛は軽くなります。食事や飲み物も、温かいものを心がけて摂りましょう。また、お腹を締めつけるガードルやスリムなジーンズは、血行を悪くするので避けましょう。痛みがひどいときは鎮痛剤を服用します。しかし、どんな薬にも副作用があります。したがって薬に頼るのではなく、薬とうまく付き合う方法を考えましょう。鎮痛剤や、漢方薬、ピルなどを上手に服用し、適切に治療をすれば痛みは大分軽減されます。しかし、毎月の生理時に、毎回鎮痛剤を服用する方は子宮内膜症の可能性があるので、是非一度かかりつけの専門医を受診してください。特に、最近生理痛がひどくなってきた方や、鎮痛剤の服用量が増えてきた方は注意が必要です。子宮内膜症は不妊の原因にもなりますから、早期からの治療が必要です。専門医を受診することによって、生理痛の原因が判明するだけでも、安心感が得られると思います。

 

 

福島県産婦人科医会 会報 第23号 平成20年10月掲載

 

巻頭言

 産女(うぶめ)とは、難産のために亡くなった女性の霊魂をいい、下半身を赤く染めた女性の姿で、橋のたもとや、四辻などにその姿を現し、通行人に子供を抱いてくれと懇願する亡霊のことを言います。我が国における、2006年の妊産婦死亡数は54人であります。私が生まれた頃は、死亡数が2097(1960年(S35)で、私が医師になった頃は226(1985(S60))でありました。医学の進歩および、医師はじめとした医療スタッフの自己犠牲的精神に支えられ、着実に、妊産婦死亡は激減し、今日のお産の安全神話が作られました。大野病院事件は、そんな安全神話が仇となってしまったのでしょうか。その日本中が注目した判決が、8月20日に出されました。「加藤医師に無罪」「標準的な措置」と。裁判対策に合宿まで行った、佐藤章教授をはじめとした医療関係者、および弁護団の方々に本当に敬意を表するものであります。

 医療とは不確実性・不確定要素の強い分野であります。つまり、同じ病気でも病態や経過が患者様によって微妙に異なるということです。医療は元々、普遍的なサイエンスではなく、個々に適用されるアートであると言われております。今回の事件のように、ある不可避な事態にまで刑事責任が問われるなら、医療は成り立たなくなってしまいます。

 今回の事件が影響して、福島県の分娩施設は3106年3月)施設から1908年8月)施設に減少しました。全国的にお産難民問題や、地域医療崩壊が進行しました。この医療崩壊は、もはや、一医師、一病院、一地域で対応できる問題ではなく、国策によって早急に対応すべき、非常に重要な国家的問題だと思います。しかし、福田内閣は国民の危機感に鈍感です。社会保障費33兆円(一般会計22兆円)の予算にも関わらず、小泉内閣から続いているマイナスシーリングの2200億円(わずか0.7%)をも撤廃できませんでした。7月末に緊急対策「5つの安心プラン」を発表しましたが、約160項目に及ぶ施策に関して、財源の見通しもなく、選挙向けと言われておりました。そんな福田首相は突然政権を放り投げました。本当に我が国は、どこに向かって進めばよいのでしょうか。

 我々は、産女を一人でも少なくするよう、地道に病院の安全管理システムを改善し、医療機関連携、救急支援体制のいっそうの向上に努めていくしかありません。

 無罪判決を期に、改めて、亡くなられた妊婦さんのご冥福をお祈り致します。ご遺族にも、一日も早く心の平安が訪れますよう、重ねてお祈り申し上げます。

 

少しでも出産時のリスクを軽減するために、今からでも喫煙してる方はやめましょう。太ってる方はdietしましょう。
不安な方、質問のある方は専門医を受診しましょう。

先生の経歴
福島医大大学院卒業
米国テキサス大学留学
福島医大産婦人科准教授を経て
平成21年クリニックを開設
平成22年福島県立医科大学臨床教授